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宮崎地方裁判所 平成3年(行ウ)3号 判決

原告 林好美 ほか二八名

被告 宮崎営林署長

代理人 伴喬之輔 菊川秀子 阿萬英俊 日高静男 江上久継 岩元和男 ほか八名

主文

一  本件各訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、平成三年一月三一日、宮崎市山崎町字浜山国有林及び同市阿波岐原町字前浜国有林一三三・七六五一ヘクタールにつき、訴外フェニックスリゾート株式会社に対してした、使用用途をゴルフ場、ホテル等とする使用許可処分を取り消す。

第二事案の概要

一  本件は、宮崎市内に居住する原告らが提起した行政処分取消訴訟である。原告らが取消しを求めるのは、被告が、国有財産法一八条三項に基づき、訴外フェニックスリゾート株式会社(以下「フェニックスリゾート」という。)に対し、同市阿波岐原町字前浜国有林及び同市山崎町字浜山国有林である松林の一部一三三・七六五一ヘクタール(別紙「国有林使用許可位置図」に記載の部分。以下「本件国有林」という。)を、高層ホテル、開閉ドーム式屋内プールのウォーターパーク、ゴルフ場等の大規模総合リゾート公園施設シーガイア(以下「シーガイア」という。)を建設するために使用することを許可した処分(以下「本件許可処分」という。)である。

二  原告らは、シーガイアの建設は、行政財産たる本件国有林の用途又は目的を害するものであるから、本件許可処分は、国有財産法一八条三項の「行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度において、その使用又は収益を許可することができる」との規定に反する違法な処分であって、取り消されるべきであると主張している。

これに対し、被告は、本案前の主張として、原告らは、本件許可処分の取消しを求める法律上の利益を有せず、原告らには本件訴訟の原告適格がないと主張するとともに、本案についても原告らの主張を争っている。

以上のとおり、本件における争点は、原告らの原告適格の有無と、本件許可処分が国有財産法一八条三項の要件に該当するか否かである。

第三争いのない事実並びに〈証拠略〉により認められる事実

一  当事者等

1  原告らは、本件国有林西方の後背地周辺及び本件国有林の南ないし南東方面の宮崎市内に居住している住民である。

2  被告は、農林水産省設置法二一条、二八条一項、二九条、三〇条、三一条、三二条一項・二項、三三条一項・二項、三四条一項・二項、農林水産省組織規程(昭和六〇年農林水産省令第七号)五四一条、昭和二年農林省告示第二五二号、農林水産省所管国有財産取扱規則(昭和三四年農林水産省訓令第二一号)二条一項、三項に基づき、本件国有林についての、国有財産法一八条三項に基づく使用許可処分を行う権限を有する者である。

3  フェニックスリゾートは、宮崎市の大淀川河口付近から宮崎郡佐土原町の石崎川河口付近に至る海岸沿いのいわゆる一ツ葉地区におけるリゾート開発等を目的として、宮崎県、宮崎市及びフェニックス国際観光株式会社ほか民間企業一〇社の共同出資により、昭和六三年一二月二七日に設立された、いわゆる第三セクターの株式会社である。

4  本件国有林は、一ツ葉地区に位置し、東方を日向灘に面する、宮崎市阿波岐原町字前浜国有林及び同市山崎町字浜山国有林であるクロマツを主体とした松林の一部(一三三・七六五一ヘクタール)である。本件国有林を含む周辺の国有林一四九・九二七二ヘクタールは、防潮機能、すなわち、津波、高潮、塩害及び潮風害などの潮害を防備する機能を有するものとして、明治三〇年一二月二八日付けで、森林法二五条一項五号の潮害防備保安林に指定されている。

二  本件許可処分に至る経緯

1  宮崎県は、昭和四〇年代には「新婚旅行のメッカ」といわれ、全国から多くの観光客が集まり、観光関連産業は、宮崎県の産業の柱となっていたが、沖縄の本土復帰や海外旅行ブームなどにより、昭和五〇年代以降宮崎県の観光客は減少し、観光関連産業は低迷するようになった。そこで、宮崎県は、昭和五八年三月に「亜熱帯性ベルトパーク実施構想」を策定し、宮崎・日南海岸一体に海洋性リゾートを中心とした総合的な観光レクリエーション地域を形成するなどして、県全体の地域振興を図るなどの計画を進めていたところ、昭和六二年六月、総合保養地域整備法が施行されたことから、宮崎県は、右「亜熱帯性ベルトパーク実施構想」をさらに発展させ、「宮崎・日南海岸総合保養地域の整備に関する基本構想」を策定し、昭和六三年七月九日、前記総合保養地域整備法五条に基づく主務大臣の承認を受けた。宮崎県は、一ツ葉地区を右「宮崎・日南海岸総合保養地域の整備に関する基本構想」における重点整備地区の一つとし、同地区におけるリゾート開発の中心的事業としてシーガイアを建設することとして、昭和六三年一二月二七日、シーガイアの建設及び運営を目的として、フェニックスリゾートが設立された。

2  フェニックスリゾートは、平成二年二月五日、宮崎県知事(以下「知事」という。)に対し、都市計画法五九条四項に基づき、都市計画事業として宮崎広域都市計画公園事業の認可の申請と、右事業の実施に必要な本件国有林のうち六一・一五四九ヘクタール(以下「本件解除予定保安林」という。)についての保安林の指定の解除の申請をした。これを受けて、知事は、本件解除予定保安林の指定の解除について熊本営林局長に照会し、解除に異議がない旨の回答を得た上、同年三月六日、農林水産大臣に対して、都市計画公園事業用地とするため、森林法二六条二項、二七条一項に基づき、本件解除予定保安林の指定の解除の申請をした。農林水産大臣は、同年四月一八日、同法二九条に基づき、知事に対し、本件解除予定保安林の指定の解除の予定通知をし、知事は、同月一八日、フェニックスリゾートに対し前記都市計画事業を認可すると共に、同月二四日、同法三〇条に基づき、宮崎県告示第四九一号及び四九二号をもって右解除予定通知の告示を行った。

以上のような経緯で、フェニックスリゾートは、平成二年一二月二〇日、国有財産法一八条三項に基づき、被告に対し、前記都市計画事業等の実施に必要な本件国有林一三三・七六五一ヘクタールについての使用許可処分の申請をし、被告は、平成三年一月三一日、本件許可処分を行った。なお、フェニックスリゾートは、平成三年一月一四日、宮崎県中部農林振興局長(但し、書面上の記載は知事)に対し、森林法三四条二項に基づく、本件保安林における、シーガイア建設のための立竹の伐採及び土地の形質変更行為の許可の申請及び同法三四条一項、森林法施行規則二二条の八第一項五号に基づく、本件保安林における立木伐採の届出をし、宮崎県中部農林振興局長は、同月三〇日、フェニックスリゾートに対して、前記形質変更行為の許可処分を行った。

3  その後の平成四年一〇月一四日、フェニックスリゾートは、被告に対し、施設の建築面積、延床面積や施設の内容の一部を変更するなどの、本件許可処分の変更申請をし、被告は、同年一〇月一九日、右変更申請について、その一部を除いて、変更を許可した。

第四争点

一  原告適格について

1  原告らの主張

原告適格についての法律論として、いわゆる法律上保護された利益説は妥当でなく、法律上の保護に値する利益説によって本件における原告適格の有無を判断すべきである。仮に、法律上保護された利益説によるとしても、現在最高裁判所が採用している法律上保護された利益説は、実質的には法律上保護に値する利益説に極めて近いものである。

森林法二五条一項五号が規定する潮害防備保安林は、一般的公益を保護するのみならず、それに解消されない周辺住民の個々的な権利・利益をも保護するものであるから、保安林の指定又は解除につき直接の利害関係を有する者は、保安林の指定又は解除の処分の取消訴訟につき原告適格を有すると解すべきところ、本件許可処分は、直接的には国有財産法による使用許可処分であり、保安林の指定の解除処分ではないものの、保安林として指定された国有林においてシーガイア建設のための使用を許可することは、保安林の大量の伐採を当然に予定したものであり、保安林の指定の解除処分がされたのと同様の結果をもたらすものであるから、本件における原告適格の有無は、保安林の指定の解除処分の場合と同様に解すべきである。そして、原告らの居住地と本件国有林の位置関係からすると、原告らは、本件保安林の指定の解除処分につき直接の利害関係を有するから、本件許可処分によって原告らが侵害される利益は、単なる事実上の利益ないし反射的利益ではなく、法律上保護された利益である。又、保安林である国有林野については、当該林野が保安林として指定されること又は指定が解除されることについて直接の利害関係を有する者は、その国有林野の貸付使用について優先権を与えられている(国有林野法八条三号、同法施行規則二一条六号)。したがって、本件国有林の保安林指定に直接の利害関係を有する原告らは、それが他に貸付使用されないことにつき、法律上保護された利益を有するといえる。

2  被告の主張

行政処分の取消しの訴えは、当該処分の取消しを求めるについて法律上の利益を有する者に限り提起することができ、原告適格の有無は、行政処分によって自己の権利又は法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者であるか否かによって判断される。法律上保護された利益とは、行政法規が私人等権利主体の個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障されている利益をいい、行政法規が公益の実現等他の目的のために行政権の行使に制約を課している結果、たまたま一定のものが受けることとなる反射的利益ないし事実上の利益とは区別されるべきものである。したがって、右の反射的利益を受けているにすぎない者は原告適格を有しない。

国有財産法は、もっぱら国有財産の管理及び処分について、これを適正かつ効率的に行うための通則法であって、同法上、国有財産の使用の許可について、処分の相手方以外の第三者の個人的利益まで保護する規定は存せず、そのように解釈すべき合理的理由は存しない。同法一八条三項は、国が国有財産の管理の一態様として行政財産を国以外の第三者に使用又は収益をさせる場合の準則を定めたものであり、使用又は収益の許可の当事者以外の第三者の利益を保護することを目的とした規定ではない。

又、本件国有林は、国有財産法三条二項四号に規定する、国の企業の用に供する企業用財産であり、かつ、国有林野法二条一号の国の森林経営の用に供する国有林であるところ、国有林は、国の森林経営の用に供することを本来の目的とする財産であるから、国は森林経営上の必要性があれば、自由に立木を伐採することができ、また国有財産法、国有林野法の定めるところにしたがって、他の者に使用させることもできるものである。これらの行為は、国が国有林に対して有する所有権に基づく作用であるから、第三者たる国民がこれらの行為の差止めを求めることはできない。もっとも、国有林が、各種の災害発生の防止や被害の抑制の機能を果たし、あるいは公衆の保健休養の場となっていることはもとよりあり得ることであるが、そのことによって、個々の国民が国有林に対し、右機能を果たすことを要求する権利を有し、あるいは国有林を保健林として利用する権利を取得するものではない。

原告らは、単に本件国有林の近辺に居住する住民であり、本件許可処分により潮害等の被害を受けるかもしれない旨の主張は、国有財産法上の使用許可に関する規制によってたまたま受けている反射的利益を主張しているものにすぎないから、法律上保護された利益を侵害される者とはいえず、原告適格を有しないことは明らかである。

二  本案について

1  原告らの主張

(一) 本件国有林は、日向灘から陸地に向かって発生する高潮、津波、塩害等を防止する保安林として指定を受けた国有林であり、本件許可処分の時点においても右指定は解除されていなかった。したがって、本件国有林につき、保安林としての機能に支障をきたすような使用収益行為は、本件国有林の用途又は目的を妨げるものであり、被告は、私人に対し、このような使用収益行為を許可することはできない。本件許可処分は、本件国有林内に成育する松の半数近くの約六一ヘクタール、推定約一〇万本を伐採、除去することを前提とするものであるから、保安林指定の解除のないまま本件許可処分をなすことは、国有財産法一八条三項の規定する「その用途又は目的を妨げない限度」との要件に違反する。

(二) 本件国有林は、保安林としての用途又は目的を有しているのみならず、その西方に広がる宮崎市市街地に最も近接した海浜の松林森林地帯として、宮崎市民の憩いの場、レクリエーション、自然観察の場として使用されてきており、宮崎市民の貴重な自然休養林、森林自然環境等としての用途、目的をも兼ね備えている。ところが、本件許可処分は、営利を目的とする一民間会社であるフェニックスリゾートに本件国有林を排他的に占有、使用させるものであり、宮崎市民が休養、レクリエーション等の場として本件国有林を自由に使用することをできなくするものである。したがって、本件許可処分が、本件国有林の国有林としての用途又は目的を著しく妨げることは明白である。

(三) 国有財産法一八条一項は原則として行政財産に対する私権の設定を禁じながら、同法一八条三項が一定の場合に行政財産に対する使用、収益を許可している趣旨は、その使用、収益が必ずしも当該行政財産の用途又は目的を妨げない場合もあるので、その本来の用途又は目的を妨げない限度で例外的に使用、収益を認めることにしたものである。そうすると、同法一八条三項は、少なくとも当該行政財産が有している本来の機能と相いれないか少しでもこれを損なうような形での使用は認めないものと解される。このような同項の趣旨からすると、将来当該行政財産を本来の目的に使用すべきときに直ちに原状回復をはかることが困難になるような性質の使用、収益は同項の趣旨を逸脱するものと解される。ところが、本件許可処分は、前記のとおり大量の松を伐採することを予定するものであるところ、三〇〇〇億円もの投資により設置される大規模リゾート施設シーガイアが、将来採算ベースに乗り正常な運営ができる可能性は極めて乏しく、仮に経営不振となるなどしてフェニックスリゾートが中途で経営を放棄した場合、本件国有林は広大な裸地の荒れ地のまま取り残されることとなるが、その場合、松林を原状に復帰させるには約一〇〇年の歳月と膨大な費用、労力を要し、速やかな原状回復など不可能となる。このような形での行政財産の目的外使用はそもそも国有財産法の予定するところではなく、本件許可処分が同法に違反することは明白である。

(四) 本件許可処分は、平成二年六月一一日付け林野庁長官通達によって定められた森林内開発行為の許可基準の運用細則に適合しない。右通達の運用基準では、森林内のゴルフ場の造成及び宿泊施設又はレジャー施設の設置につき、森林率や各ホール間の残置森林又は造成森林の幅等を定めているが、本件許可処分が前提とするフェニックスリゾートによるシーガイアの設置は、ことごとく前記通達に反している。前記通達は、近年の森林開発の加速化に対し地域森林の保全と環境保全及び森林の公益的機能の維持のためにどうしても必要なものとして一六年ぶりに改定されて主務官庁から発せられたこと、前記通達は、本来規制が緩やかであるべき民有林を念頭においたものであり、国有林の開発については前記通達の内容よりも一層厳格な基準が妥当すべきことからすれば、前記通達に反する本件許可処分が、本件国有林の用途又は目的を妨げることは明白である。

(五) 国有財産法の一般的な趣旨、目的からすれば、行政財産たる本件国有林につき、その使用許可処分を行うには、使用内容についての一定の公共性とどうしても本件国有林を使用しなければならないという必要性を要し、右の要件に該当する場合に、必要最小限の範囲内でのみ使用が許可されるというべきである。

ところが、本件許可処分は、前記のとおり、一営利企業たるフェニックスリゾートに本件国有林を排他的独占的に使用させるものであり、しかも投下資本の巨額さからすると、各施設の入場料、使用料等は相当に高額とならざるを得ず、一般市民が気軽に利用できるような施設とはほど遠いものであって、公共性があるとはおよそ言い難いものである。又、現在、宮崎市内には既に一一箇所ものゴルフ場が存在しているが、ゴルフ場の乱開発による森林、自然の破壊、土壌汚染が社会問題となっている中で、新たにゴルフ場を設置するについては、十分な公共性が必要であるが、江戸時代から地域住民に営々と植林され守り育てられてきた本件国有林を破壊してゴルフ場を設置することには公共性、必要性は全く認められない。

(六) 本件国有林は、国有林野法の適用を受けるものであるが、本件許可処分は、行政財産たる国有林野を国以外の第三者に貸し付け又は使用させる場合の要件を定める同法七条一項に違反している。すなわち、同項によると、国有林野を貸し付け又は使用させることができるのは、「その用途又は目的を妨げない限度において」であり、しかも、〈1〉公共用又は公益事業の用に供するとき、〈2〉土地収用法その他の法令により他人の土地を使用することができる事業の用に供するとき、〈3〉放牧又は採草の用に供するとき、〈4〉その使用させる面積が五ヘクタールを越えないとき、のいずれかの場合に限定されているところ、フェニックスリゾートによるシーガイア建設事業は、右いずれの場合にも該当しない。したがって、右事業施行のためにされた本件許可処分は違法である。

2  被告の認否・反論

(一) 本件許可処分は国有財産法一八条三項に違反しない。保安林指定の解除がされなければ、立木の伐採を伴う使用行為の許可を国有財産法一八条三項に基づいて行うことができないとの主張並びに本件許可処分が国有財産法一八条三項の規定する「その用途又は目的を妨げない限度」との要件及び国有財産法の一般的趣旨に違反するとの主張はいずれも争う。

(二) 本件国有林が防潮、防風、防砂等の機能を有していること、又そのような公共的機能を有するものとして維持されてきたことは認める。又、本件国有林は、森林法上の潮害防備保安林に指定されており、その所有者である国は、森林法による制限を受け、義務を課されている。したがって、本件国有林は右のような機能を有した国有林として適切に維持管理されるべきものではあるが、本件国有林が保安林であることによって課されている制限及び義務の範囲を超えて、本件国有林を地域住民の居住環境、生活環境、農業環境等に資せしめるべき法律上の義務を国又は被告が負担しているものではない。本件国有林は一般市民のための自然休養林、森林自然環境等としての用途、目的を有するものではない。本件国有林を管理している被告は、従前、一般市民が散策、自然観察等のために本件国有林内に立ち入ることを禁止していなかった。そのため、本件国有林の周辺住民らは、その散策等を楽しむことができたが、それはそこに本件国有林が存することによる反射的利益にすぎない。本件許可処分に伴う本件国有林の一部伐採によってその防潮、防風、防砂等の機能が損なわれるとの主張は争う。本件許可処分が予定するフェニックスリゾートのシーガイア事業計画につき、平成二年六月一一日付け林野庁長官通達に適合していない部分があることは認めるが、本件許可処分は右通達による改正前の昭和四九年一〇月三一日付け四九林野治第二五二一号林野庁長官通達「開発行為の許可基準の運用細則について」の適用を受けるものであり、右通達に適合していたものである。又、国有林の開発行為については民有林よりも一般的に厳格に規制されなければならないとの主張は争う。

(三) 国有林野法七条一項の要件に該当しない限り第三者に国有林の使用を認めることはできないとの主張は争う。本件許可処分は、国有財産法一八条三項の規定に基づいてしたものであるから、国有林野法七条一項の要件に該当しないことにより違法となるものではない。

第五争点に対する判断

一  原告適格について

1  行政事件訴訟法九条の「行政処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」の意義

行政事件訴訟法九条にいう、行政処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい、当該処分を定め行政法規が、不特定多数者の具体的利益を一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有する。そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである(最高裁判所第三小法廷平成四年九月二二日判決。民集四六巻六号五七一頁)。

2  本件における原告適格の判断

以上に述べたところからすると、本件における原告適格の有無は、国有財産法一八条三項が、「行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度において、その使用又は収益を許可することができる」と規定している趣旨・目的や右規定が保護しようとする利益の内容・性質を考慮して判断すべきことになる。

本件国有林が行政財産であることは争いのない事実であり、〈証拠略〉によれば、本件国有林は企業用財産、すなわち、国において国の企業又はその企業に従事する職員の住居の用に供し、又は供すると決定したものであると認められる。そして、国有財産法が、行政財産に企業用財産という特別の種類を設けた趣旨は、国が営む事業用の財産については、その職員のための宿舎をも含めて、営利原則に立脚した事業用財産として企業会計的な処理に服するようにする必要があり、他の国有財産とは異なる処理をするためであると解される。そうすると、企業用財産の用途又は目的に、右企業に無関係な、周辺住民の個別的利益が含まれているとみる余地はない。したがって、本件国有林が行政財産中の公共用財産であることを前提とする原告らの主張は、その前提において失当である(なお、原告らは、本件国有林が企業用財産であるとの被告の主張は時機に遅れたものである旨主張している。しかし、被告の右主張は、審理経過としては、証拠調べの比較的早い段階に属する平成四年七月二七日の第五回口頭弁論において行われているものであるから、時機に遅れたものとも、その提出のために訴訟の完結が遅延するとも認め難く、原告らの右主張は採用できない。)。

原告らは、原告らの個別的利益が法律上保護されているか否かにより取消訴訟における原告適格の有無が決せられ、基本的には当該行政処分の根拠規定の趣旨・目的を解釈してこれを判断すべきであるとしても、当該規定のみを解釈するのではなく、当該法規及びこれと趣旨・目的を共通する関連法規によって形成される法体系の下で、いかなる利益が保護されているかを考慮しなければならないとした上、本件国有林が企業用財産であるとしても、同時に森林法上の潮害防備保安林であるから、このような場合には、国有林についての使用収益処分を制限する国有財産法一八条三項の趣旨には、保安林の指定によって達成しようとした利益を守ることも含まれると主張する。しかし、国有財産法の基本的な趣旨は、国有財産の取得、維持、保存及び運用並びに処分についての通則を定めることにあり(同法一条)、森林法の基本的な趣旨は、森林計画、保安林その他森林に関する基本的事項を定めて、森林の保続培養と森林生産力の増進とを図り、もって国土の保全と国民経済の発展とに資することにある(同法一条)のであって、両者は、趣旨・目的を共通にするとはいえない。又、本件国有林が保安林に指定されていることによって近隣住民が受けている利益は、一般的公益に解消されるものではなく、保安林の指定又は解除に直接の利害関係を有する個々の住民の個別的利益は、保安林の指定によって法律上保護されていると解され、したがって、右のような保安林の指定又は解除に直接の利害関係を有する者は、当該保安林の解除処分の適否を争う原告適格を有するが、本件国有林が保安林とされていることによる利益を侵害されたと主張する者は、本件解除予定保安林の解除処分等を対象として、その処分の適否を争えば足りるものというべきであり、国有財産法一八条三項の趣旨の中に保安林の指定によって達成しようとした利益を守ることまで含ませる理由はない。なお、原告らは、原告適格を肯定すべき理由として国有林野法八条三号、同法施行規則二一条六号を挙げているが、右規定は、普通財産である国有林野に関するものであるところ、先に認定したとおり、本件国有林は、行政財産中の企業用財産であるから、原告らの主張はその前提において理由がなく、採用することができない。

以上のとおりであり、原告らには本件許可処分の取消しを求める法律上の利益がなく、原告らは本件訴訟の原告適格を有しない。

第六結論

よって、本件各訴えはいずれも不適法であるからこれらを却下し、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤誠 重富朗 西田時弘)

別紙当事者目録〈略〉

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